110723
言志録 第53条
家翁、今年齢八十有六。
側(かたわ)らに人多き時は、神気自ら能く壮実なれども、
人少なき時は、神気頓(とみ)に衰脱す。
余思う、子孫男女は同体一気なれば、
其の頼んで以て安んずる所の者固(もと)よりなり。
但だ此れのみならず、老人は気乏し。
人の気を得て以て之を助くれば、
蓋し一時気体調和すること、温補薬味を服するが如きと一般なり。
此れ其の人多きを愛して、人少きを愛せざる所以なり。
因て悟る、王制に、「八十、人に非ざれば煖ならず」とは、
蓋し人の気を以て之を煖(あたた)むるを謂うなり。
膚嫗(ふう)の謂に非ざるを。
〔癸酉(文化十年)﨟月(十二月)小寒の後五日録す。〕
礼記にある「八十、人に非ざれば煖ならず」を、
人肌ではなく、人の「氣」こそが、人を安心させると解き明かす。
真冬に九十歳近い老父の姿に学びを見出す。
人は、「同体一気」である家族一族のみならず、
「人の氣」に支えられて、その生を全うするものと。
誕生も、その終盤も、人に囲まれ過ごせることの幸せを思う。
そのことを、まさしく人生中盤の四十二歳の一斎先生が書き記していることに、
共感を覚える。
礼記という「経」に学び、老父という「人」に学び、
真冬の一族家族のあり方は、「自然」に学ぶことになろうか。(第二条)
天意にかなった人のあり方を、あらゆる師から学び取ろうとする姿がここにある。
昨日訃報が届いた。
瑞浪市の、そして大湫町の歴史を研究され続けた、
江戸屋渡邉俊典翁、八十六歳で天寿を全うされた。
ご冥福を祈念したい。
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